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旅好きな僕と、となりのさやかちゃん①

どれみちゃんねるおジャ魔女どれみ旅情編」スレにて超不定期連載中の鉄系SS
「旅好きな僕と、となりのさやかちゃん」シリーズです。
 
 旅好きな僕と、
 となりのさやかちゃん
 
 第1話
 【春の野辺山高原と、ポッポ牛乳ノスタルジィー】
 
 
日曜の朝は早起きするに限る。

「おはよう、おにいちゃん!」
 
駆け寄ってくる彼女に、おはよう、と挨拶を返す。遅れて、後ろに立つ親御さんに、
おはようございます、とお辞儀した。
美空駅、朝7時半。「ふたりはプリムラ」は予約して家を出てきた。彼女もそうして来ただろう。
さやかちゃんと行く、はじめての二人旅。
 
「それじゃ、行ってきます」
「いってきまーす」
 
手を振る僕らを乗せた電車が、ホームを離れていく。
まずは横浜で湘南新宿ラインに乗換え、新宿へ。そこから先は――
 
「どこ、つれてってくれるの?」
「それは、…ナ・イ・ショ」
「えぇー?」さやかちゃんが不満そうな声を上げる。行き先は前もって親御さんには伝えてあるが、
彼女には着いてからのお楽しみ、というわけで。
 
 
横浜にて待つこと10分余り、小田原からの快速列車新宿行が到着する。
 
「あ、ぜんぶ2かいだてのでんしゃだ…!」
「乗ったことある?」
「ううん、見たことはあるけど」
 
早速2階へ上がろうとするさやかちゃんだったが…
 
「のぼれなぁい」
「お?」階段の途中にも人が立っている。どうやら2階は満席らしい。
「いいよ、ここで? どうせ新宿着いたらすぐ並ばなきゃならないしさ」
 
在来線初のオール2階建て車両「215系」。湘南新宿ラインの新宿以南や、朝晩の「湘南ライナー」などに
運用されてきたが、座席数が多いことと、2階からの眺めのよさという以外は、特にメリットはない。
逆に乗り心地の悪さや、2扉のため乗降に時間がかかり遅延の原因となるなど、評判はよろしくなく、
運用もなかなか一所に落ち着かないというのが現状だ。
とはいえ、うららかな春の休日、新宿へ向かうこの電車は行楽客などでかなり賑わっていた。
 
新宿に到着すると、僕らはすぐ目の前の列に並ぶ。「さあ、もう一度この電車に乗るよ」
「え、どうして?」
「これが今度は別の快速になって、山梨の小淵沢ってとこまで行くんだ」
 
車内清掃のため、紫色のドア――ステンレスの車体に映える、215系の特徴の一つだ――が閉まる。
方向幕には既に「別の快速」の名が照らし出されていた。
 
「『ビューやまなし』…?」
「うん」僕は得意げに説明を始めた。…ビューっていうのは眺めって意味で。ほら、2階建てで眺めがいいでしょ?
だから「ビュー」やまなし号。「ホリデー」ってのは…休日。この列車、土日しか運転しないからさ。
 
幼い女の子にこんな話をしても理解してもらえるかどうか怪しいものだったが、彼女はうんうんと頷き、
関心を示してくれているようだった。
そういえば、あのおんぷちゃんもかなりの「鉄」だったっけ…。
 
「――車内整備終了。準備できましたらドア扱い願います」
 
業務放送の後、ドアがいっせいに開く。
 
「行くぞさやかちゃん!」僕は彼女の手を取った。「2階2階!いい席取るぞぉ」
 
 
――「ホリデー快速ビューやまなし号」小淵沢行は、9時06分、新宿駅9番線を発車した。
これは僕の妹分、さやかちゃんに捧げる旅。彼女の大好きな「あれ」を求めて、
信州・野辺山を目指す。同時に僕にとっては、懐かしの味との再会の旅でもあった――
 
                      ◆
 
終点の小淵沢駅で「ビューやまなし」を降りた客のほとんどは、跨線橋を渡って隣のホームへと向かう。
土・休日に運転する臨時普通列車「八ヶ岳高原列車」野辺山行に乗るためだ。
 
「このでんしゃ、けむりはいてるー」
「うん、これはねぇ」電車しか見たことのないさやかちゃんに、簡単に気動車の説明をしてあげた。
「――電車は電気の力で走るけど、気動車は車と同じようにガソリンで走るんだよ」
 
「キハ110」系は、JR世代の比較的新しい気動車である。車体の軽量化、エンジンの高性能化などにより、
電車並みの加速を実現。キハ40、58といった国鉄世代を次々と押しのけ、今や東日本の非電化区間のエースとなった。
その個性的なスクエアなデザインが僕はとても気に入っている。ステンレスでなく鋼製車体というのもいい。
 
列車は始発駅の小淵沢を出てまず、小海線名物の大カーブ、180度の弧を描く築堤に差し掛かる。
先刻まで右手に見えていた雄大な八ヶ岳が、見る見るうちに左へとその位置を変えるさまが面白い。
普通、片方の車窓から見える景色は180度だが、ここでは正に360度の大パノラマを楽しむことができるのだ。
前半は南アルプスの山々、後半は先述のとおり八ヶ岳といった具合。もちろん最初から右側の席に陣取れば
逆のパターンを楽しめるのだが、それは次の機会にとっておこう。
 
「昔はこの坂をSLで登ってたんだよ。シュッポッポってねぇ」
「きかんしゃね。さやか、えほんでみたことある」
 
清里・野辺山間のJR最高地点にかけては、キハ110の性能が遺憾なく発揮される区間で、最大33パーミルの急勾配を
軽やかに駆け上がっていく(もちろん平地に比べたら苦しい走りなのだろうが、僕の印象としては)。
蒸気機関車が顔を、いや石炭を真っ赤にしながらこの坂を登っていたのは、僕が生まれるより前の話だ。
 
清里に到着。とりあえずは下りることにした。
「ここ、どこなの?」
「清里」乗ってきた列車をカメラに収め、構内の踏切を足早に渡る。「ちょっと行ってみたい所があるんだ。
森の中の小さな村でさ、素敵なところらしいんだ。散歩してこよう?」
 
静かな、というより、どこか寂しい感じがするのは、既に閉店した店やペンションが見受けられるからなのだろう。
若者で賑わったという70~80年代のブームはとうに去った。土産店が並ぶ駅前の通りにも、これぞ観光地という
活気は感じられない。わかっていたことだが、小さい頃――まだ当時のブームが終焉を迎える前だったはずだ――から
一度行ってみたいと思っていた、ある意味憧れの場所だったので、ちょっと残念だった。
 
駅から坂をくだって国道141号を渡ったところに、目指す「萌木の村」はあった。
閑静な森の中に立つ欧風の建物は、レストランであり、輸入ものやハンドメイドの雑貨のお店であり、あるいはカフェである。
まず気になったスポットは、「メリーゴーラウンドカフェ」。これはさやかちゃんが喜びそうか?
そしてこの村の中核的存在といえるオルゴール博物館「ホール・オブ・ホールズ」。そこへ行ってみようと思った。
 
「あ、メリーゴーランドだ~!」
さやかちゃんが突然走り出す。木々の向こうに見えてきたのは…
「へぇ…こりゃすごいな」
 
遊園地では観覧車、ジェットコースターなどと並んで定番の乗り物だが、森の中のメリーゴーランドというと趣きが
まるで違ってくる。どこかおとぎ話の世界にでも出てきそうで、いかにもメルヘンな空気が漂う。
すぐ隣に店を構えるオープンテラスのカフェもなかなかお洒落。聞けば、ハマサキアユミとか、シバサキコウとかの
PVのロケ地になったそうで、なるほどとうなずける。
 
「おにいちゃん、いっしょにのろ~」
「え、あ…うん」
 
彼女を連れて鉄道に乗せて回る旅も、この時だけは立場逆転、彼女に手を引かれるままメリーゴーランドに乗る。
さすがにちょっと恥ずかしい…が、こういうのは一度乗ってしまえばすぐ慣れる。晴れて僕もメルヘンの国の住人となった。
僕の前の馬に乗った女性は、飼い犬をいっしょに乗せている。ペットと乗れるメリーゴーランドというのも
ユニークだなと思った。そういえば、ここはペット入店可の店が多く、そうでないところも、店外には犬を繋いでおく
スペースが用意してある。「萌木の村」自体、ペット連れへのサービスが充実しているのだ。
 
                      ◆
 
メリーゴーランドに2回も乗り(乗せられ)、オルゴール博物館を見て回り、駅へ戻る前にもう1か所、ぜひとも
見ておきたい場所があった。

「これが『ハット・ウォールデン』かぁ…」

僕が清里に抱いた「憧れ」の、その大部分は、実はこのホテルにある。
それほど行きもしないのに旅行好きの僕に昔買い与えられた、とある旅行の本で見かけた一つのホテルの、
何に惹かれたって、その名前である。「ハット・ウォールデン」――建物の外観ももちろんだが、
とにかく名前がいたく気に入ってしまった。今はもうその本は手元になく、本のタイトルすら覚えていない。
覚えているのはただひとつ、ホテル「ハット・ウォールデン」だったのだ。

「さやか、こことまりたぁい。ね、とまっていこうよぉ」
「え…」
何気に凄いことを言い出すさやかちゃん…
「だめだめ、今日は日帰りなんだから。明日学校だろ? 僕だって明日仕事だし…」

明日が休みだったら。…口には出さないが、ちょっと思ったりした。けれど、とにかく、一つ目的を達成したという
喜びの方が大きかった。ここへは日を改めて、落ち着いたときに一度泊まりに来たいと思う。もちろん、彼女を連れて。
小さい頃からずっと行きたかった場所に来るというのはいい。それは、解けなかった問題の答えを見つけるのに似ている。


「もうすぐ、日本の鉄道で一番高いところを通るよ…」
野辺山への最後の急勾配を列車が登りきるとすぐ、右手に記念碑が現れる。
「ほら、ここだ!」
「え?どこどこ?」
「今ンとこ」
「え~、なにもなかったよぉ?」
「さっきのところに最高地点って書いてあったじゃん…って言ってもわかんねぇか。 …あれ?」

列車は標高1375メートルの「JR最高地点」を過ぎた。後は、野辺山駅へ向かって下るだけである。が、「登って」いる…?
わずかではあるが、さらに登り坂が続いているように感じるのだ。先程までの急勾配を抜けた直後のため、錯覚に
陥っているのかもしれない。が、いずれにせよ、最高地点を通過したという感慨は雲散霧消。僕の頭には疑問だけが残る。
――いつか、機会があったら、あの場所で検証してみようかな。空き缶か何か転がしてみて…
そんなことを考えているうちに、野辺山に到着してしまった。

野辺山駅は、これまた「JR最高」、日本で最も高い所にある駅だ。1345.67メートルと先の最高(?)地点に比べれば
30メートルほど低いが、こっちの方がより実感が湧いてくる気がする。それは錯覚などではなく、前者が単なる「地点」、
通過点に過ぎないのと、後者が「駅」という具体性のある場所だということの違いなのだと思う。


駅から歩いて10分ほど、いよいよ今回の旅最後の目的地「ヤツレン」にやって来た。

㈱ ヤ ツ レ ン

の文字の左には、トレードマークである汽車の絵が描かれている。…これだ。
 
                      ◆
 
「みておにいちゃん、シュッポッポ、だって~」
「そうそう」看板を指差すさやかちゃんに初めて、ここへ来た目的を明かす。「ここは牛さんからとれたお乳を
牛乳とか、チーズとかにして売ってるところなんだ。…あと、ヨーグルトとかね」
「ヨーグルト? さやか、ヨーグルトだいすき!」

案の定、ヨーグルトと聞いて目の色が変わったか、と僕は思った。ヨーグルトは彼女の大好物だ。
以前は食べず嫌いだったが、上級生とのお食事会で食べたのがきっかけで――反動というのか、今では毎日食べているという。

「ここのヨーグルトはきっとおいしいよ~。なんてったって、とれたてだからね。それに、ほら、
ヨーグルトの上にソフトクリームが乗っかってるのもあるんだよ」
「あ、それにする~!」

売店でそのヨーグルトソフトを買って、八ヶ岳のよく見える静かな場所に並んで腰をおろす。

「いただきまーす!」
高原の風に吹かれながらソフトクリームを食べる。まさに至福の一時だな、と思った。
「おいし~い」
「おいしいよね~。あ、上のソフトクリームと下のヨーグルトをまぜて食べるといいよ」

食べながら、さやかちゃんの顔を眺める。おいしそうにヨーグルトを食べる彼女を見て、よかった、どうやら気に入って
くれたようだと思うと、僕が食べているヨーグルトの味も、ちょっとだけ甘酸っぱさが増した気がしたのだった。


野辺山高原周辺の牧場を原産とする乳製品を製造する「ヤツレン」。敷地内には工場と、直売所がある。
工場の一部はガラス張りになっていて、外から工程を見ることができた。

「学校でバスに乗って、こういうの見に行ったことあるでしょ?」
「あるある~」

社会科見学もそこそこに、僕らは直売所に立ち寄った。
店内には、牛乳、ヨーグルト、飲むヨーグルト、チーズケーキ、スモークチーズなどなど、そのどれにも
「シュッポッポ」のマークが冠されているのだが…やはり真っ先に手に取ったのは牛乳だった。

「八ヶ岳野辺山高原3.6牛乳」

青地に白で描かれた「シュッポッポ」。間違いない、このパッケージだ…もう何年ぶりなんだろう?
とりあえず、お土産用に1リットルのを2本、帰りの車内で飲む用に500mlのを1本買って店を出た。

「僕が小さい頃は、母さんが買ってくる牛乳といえばこの『ポッポ牛乳』って決まっててね。
牛乳も好きだったけど、この汽車の絵が特に好きだったなあ。うん、今のさやかちゃんと同じくらいの頃の話」

家の近所のスーパーでは昔は取り扱っていたが、今ではどの店に行っても見かけない(本腰入れて探してるという
わけでもないけれど)。清里・野辺山へ行こうと思い立って情報収集しているうちに、たまたま「ポッポ牛乳」が
健在であり、野辺山に直売所があることを知った。現在取り扱っているスーパーも判明したが、家からちょっと自転車で、
という距離ではないし、同じスーパーでもどの店舗にも一様にあるとは限らない。
それならいっそのこと、本家本元へ直接買いに行ったほうが確実で、何より、楽しみが増えるじゃないか。
後付けではあるが、僕にとってこの旅は第一に「ポッポ牛乳に会いに行く旅」となったのだ。

16時57分発の小淵沢行で、僕らは帰途につく。日も傾きかけた八ヶ岳の空にポッポ牛乳のパックを掲げて、乾杯。

「おいしい?」
「うん、んまいっ!」
「ホント? さやかにもちょうだい」

3.6なので濃厚ではないけれど、本場というか、いかにも高原の味という感じで、おいしかった。
青地に白の「シュッポッポ」を見ながら、ふと、思う。

――僕がこんなに旅好きになったのは、毎日「ポッポ牛乳」を飲んでいたからなのかも知れないな…

これから、彼女を連れていろんなところへ行きたい。休みの日には、こんなふうに。
おいしそうに牛乳を飲むさやかちゃんと、彼女にもこの「シュッポッポ」の魔法がかかりますようにと
ひそかに願う僕を乗せて、列車は春もまだ浅い野辺山高原をゆくのだった。

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comments

読みますたよー ◎( ゚∀゚)◎ノ
ヨーグルトのように甘酸っぱい二人旅・・・いいねぇー

ps 出先で絵茶へ入れなくてすまんこ。

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